思い出の包丁を修理いたしました

包丁について

45年間大切にお使いいただいたサンクラフトの包丁を修理しました

包丁の寿命はどれくらいだと思いますか?包丁は研ぎ直せば、長く使える道具のひとつです。ただし、長年使うことで思わぬ傷みが出てしまう場合があります。

このエピソードはご依頼いただいたお客様のご厚意で掲載しております。

コンテンツ

45年前にご購入されたお母様の包丁修理依頼

2025年の初め、サンクラフトに一本の電話がありました。

“母が45年前に購入した包丁を修理できないでしょうか?”

詳しく伺ってみると、お母様が長年愛用している包丁のハンドルのかしめ鋲(びょう)が外れてしまい、困っているというお話でした。
サイズ感やハンドルの握り心地が大変気に入っていて、試しに他の包丁を買ってみたものの、愛用している包丁の使い心地には届かない。今まで、いろいろな包丁屋さんに持ち込んで相談したものの、「修理はできない」と言われてしまい途方に暮れてしまったそうです。

古くに購入したためパッケージは無く、包丁にはメーカー名の記載が無かったため初めはどこで作られたものか分からなかったそうです。
たまたま訪ねた包丁屋さんで「ブレードに仙蔵作(せんぞうさく)と入っているのなら、サンクラフトの包丁ではないか?」と教えてもらい、サンクラフトにお電話いただきました。

「仙蔵作」と入っているのなら、きっとサンクラフト製の包丁に違いない。
ということで、まずはお手持ちの包丁を弊社にお送りいただきました。

長年使いこまれた証が刻まれた包丁

すり減った「仙蔵作」の刻印

サンクラフトに届いた包丁を一目見て、長い年月にわたりよく使いこまれている様子が分かりました。何度も研ぎ直ししたことにより、刃の刻印は薄くなっていました。

カタログから商品を特定

1980年発行の弊社カタログに、お問い合わせいただいた仙蔵作の包丁が掲載されています。

サンクラフト(旧川嶋工業株式会社)は、1978年に現在の場所に会社を移しました。その際に、現在の包丁製造につながる工場が建設されました。そして1980年、サンクラフトのオリジナル包丁シリーズが次々に発表されました。

「仙蔵(せんぞう)」の銘は、2025年現在でも形を変えながら使われ続けています。

2025年現在も「仙蔵」の銘は使われています

お預かりした包丁の刃渡りを測ったところ170mm程度になっていました。
ハンドルサイズとお客様のお話から、お預かりした包丁は仙蔵作牛刀の180mmまたは210mmであろうと推測されました。

※お預かりした包丁と同じものは、製造販売は終了しております。

修理が必要な部分の確認

ブレードは特に問題はありませんでしたが、長年愛用頂いたこともあり、ハンドルの傷みが激しい状態でした。経年劣化により、口金の一部が欠損していました。

正面から見ると、口金の一部が無くなってしまっているのがよく分かる

これにより、ハンドル内部に水分が入り込んでサビが発生していました。またサビが発生することでハンドル自体が膨らみ、その影響でかしめ鋲が外れてしまっていました。
2つあるかしめ鋲の1つが外れ、かしめ鋲もサビが出ています。

お客様の要望を加味しながら、包丁の修理の方針を立てる

お客様は長年使い続けたこの包丁のハンドルの握り心地が気に入っていらっしゃったので、元のハンドルの形に合わせて加工をしていく方針を立てました。
今回の場合、刃はそのまま活かしてハンドル部分を新しく付け替えることになりました。

職人による修理を開始

ハンドル内部の中子(なかご)を確認する

まずは、ハンドルを慎重に分解していきます。そうすることでハンドル内部の金属(中子:なかご)の状態を確認できます。

中子のサビはかなり進行し、中子全体を覆っていました。

口金を外す

包丁の刃とハンドルの間にあり、ハンドルに水が直接染み込むのを防ぐ役割のある口金。一度口金を除去します。

サビている部分を除去してみたところ、中子に穴が開いてしまっていました。

このまま使い続けていたら、調理の途中に折れてしまったかもしれません。そうなる前に修理をご依頼いただき良かったと胸をなでおろしました。

刃の中子を作り直す

穴が開いてしまった中子はそのままでは使えません。サビの進行状況から判断し、包丁の中子を作り直します。元の中子とハンドルの形を元に形をステンレス材に引いていきます。元々あった、中子を刃の付け根で切断します。

新しい中子と新しい口金を元々のブレードに溶接で接合します。

実際に溶接された様子

ブレードと口金、中子が一つになりました。

刃の表面を研磨する

溶接したままでは凸凹のままなので、接合部分を滑らかになるように研磨します。凸凹だった口金付近がなめらかになりました。合わせて、ブレード全体も研磨していきます。

 

 

 

 

 

 


水砥(みずと)と呼ばれる大きな砥石で包丁の表面を滑らかに磨き上げます。
新品のような仕上がりですが、まだ刃はついていません。

ハンドルを作る

ハンドルも水による影響を受けていたため、新たに木材を切り出して作ります。上下の四角いブロックがハンドルの材料です。元々あったハンドルに合わせてカットします。切り出したハンドルを中子に接着します。2か所のかしめ鋲も打ち込み、ハンドルと中子をしっかりと接合させます。
ハンドルは、研磨して仕上げるため中子より大きな形にしておきます。元々あったハンドルの形に倣って削っていきます。ハンドルを磨き切ります。ハンドルのツヤは塗装ではなく磨き切ることで出ます。

刃付けをして完了です

修理前と修理後の比較

修理前と修理後を並べてみました。修理を通してこれからもまた長く使っていただける包丁となっています。

部位 修理前 修理後
全体
ブレード
口金
ハンドル
かしめ鋲

お客様からの声

長年にわたり使い続けた包丁の修理が製造メーカーさんにお願いできるなんて思いませんでした。 使い込んでいて扱いやすい長さになっていたため、無事に修理が終わって、戻ってきたことを大変感謝しています。

この包丁を購入したのは、約45年程前(1980年頃)。東京都港区にある金物屋さんで購入しました。包丁の刃に「本職用」と書かれていて、金額は他の包丁よりも高いものでしたが、金物屋さんに「良い包丁だから」と強く勧められて購入しました。

メーカーとして

約45年前にご購入いただいた包丁を、長きにわたりご愛用頂けメーカーとして非常に嬉しく思います。

人によっては包丁はほぼ毎日使うもの。だからこそ気に入った包丁はできる限り長く使いたいものです。
今回の修理は少し大がかりなものになりましたが、それでもご依頼者のお母様がまたお気に入りの包丁で調理ができるように
お手伝いができて良かったです。

自社工場で職人たちが丁寧に包丁を製造し、お客様に長く使っていただく。
メーカーとしてこれからも丁寧に製造していき続けなくてはいけないと改めて感じました。

包丁修理につきまして

包丁の状態によって金額と修理期間が異なります。まずは、包丁をお預かりし、状態を確認しお見積りを致します。また包丁の状態によっては、修理自体をお断りする場合もございますのでご了承ください。

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